苦労の末に実現した、
歩道を利用した空間設計
粘り強い交渉で実現した憩いの空間
建物の外壁を大きく取り払い、通路として開放する。通路の一部はテーブルや椅子を置いて通りとの連続性のある憩いの場とする。宮崎市とNTT都市開発は、このような設計で北側に位置するNTT広島ビル旧北棟(現HAROW高千穂通)のリノベーションを進めようとしていた。
その実現にあたり、NTT都市開発担当者は、「歩行者利便増進道路(ほこみち)制度」が鍵になると考えていた。建物の外の歩道空間を活用するには、道路管理者である県の許可が欠かせない。ほこみち制度を活用すれば、テーブルや椅子を柔軟に設置できる可能性が見えてくるのだ。
当時、宮崎県でほこみち制度の導入事例はなく、申請にはさまざまなハードルも予想された。それでもNTT都市開発には、どうしても制度活用を前に進めたい思いがあった。
「1つの施設だけでまちなかを一変させることは難しいですが、私たちが先陣を切ってほこみち制度を導入すれば、高千穂通りの他の施設にも広がっていくかもしれない。そうした連鎖が、まちなかの大きな変化につながると感じていました」(竹下さん)
実は市も、社会実験を開始したときから、ほこみち制度の導入を視野に入れていた。だからこそ、国や県との連携を図りながら社会実験に取り組み、歩行者の安全が確保できることを目で確認してもらうというプロセスを繰り返していたのだ。そして社会実験が終わった後も根気強く交渉を続け、2023年12月、ついにほこみち制度の活用決定にこぎつけた。
ただし、この時点では「あくまで制度を活用できる状態になった」に過ぎず、実際に歩道空間にテーブルや椅子を設置するには、さらに「利便増進誘導区域」の指定を受け、道路管理者の占用許可を得なければならない。加えて論点となったのが、デッキの設置だった。
「建物の両端に張り出す形でデッキを設置し、その上にテーブルと椅子を置くというのが私たちの案でした。他の都市では道路にそのままテーブルと椅子を置く例もありますが、人通りが多くない通りの雰囲気を変えるには、ビジュアル面での変化も重要だと考えていました」(竹下さん)
ところが県からは、安全性をより高めるための視点として、建物側ではなく停車帯側の街路樹の間に設置する案も示された。人通りが少ない分、歩行者との接触を避けやすいという、道路管理者ならではの配慮からだ。
しかし、NTT都市開発がめざしたのはあくまで建物側でのデッキ設置。その背景には、利用者の立場に立った考察があった。
「街路樹の間にポツンとテーブルや椅子があっても、人目が気になって、座るのには勇気が必要だと思ったのです。むしろ建物に寄り添った空間にあった方が、カフェのテラス席にいるような感覚になれて利用しやすい。また、デッキで一段目線が上がれば歩行空間と区別がつき、安心して休憩できます。そういった利用者にとっての"心理的な"安全性も大切なポイントです」(竹下さん)
歩道空間の活用にあたり、見直したい点はほかにもあった。たとえば点字ブロックは、視覚に障害のある方の利用を考慮して建物の敷地に沿うように設置されているので、建物の前にデッキを置くと隠れてしまう。そこで、視覚に障害のある方の利便性を損なわない範囲で、点字ブロックを歩道の中央部に寄せたいと考えていた。
さらに、社会実験を通じて歩行者と自転車が集まることによる危険性が明らかになっていたため、自転車レーンを歩道から街路樹を挟んだ停車帯側へ移設する案も計画に盛り込んでいた。歩行者と自転車の両者の安全を確保しながら、歩道空間を広げる狙いもあった。
こうした数々の変更案をめぐり、県と綿密な調整が重ねられた。日高さんをはじめとする市は、現場を見てもらいながらメリットやリスク回避策を根気強く提案し、ときには市長が県知事に直接提言するなどして働きかけを強めていった。日高さんは「こういう機会はもう訪れないと思っていたので必死だった」と当時を振り返る。その粘り強い交渉が実を結び、県によって2025年3月に「利便増進誘導区域」に指定され、道路管理者の占用許可を取得。施設のグランドオープンまでにデッキを設置し、数々の変更を実現することができた。
当事者の視点で進んだ店舗設計
一方、HAROW広島通では飲食や物販など地元事業者の出店が続々と決まっていった。その多くは、合同会社カネックの後藤修さんのつながりの中から生まれた。
「地域を巻き込むには、まず『そこにいる』ことが大切だと思っています。私も、まちなかでブラジリアン柔術の道場を経営したり、自主制作本の販売イベントや古本市を開催してきました。そんな風に地域の『当事者』として活動する中で自然に生まれた関係性が、今回の取り組みにも生きたのかなと思います」(後藤さん)
こうした後藤さんの地元視点は、店舗設計の段階でのテナントとのやり取りにも生かされた。その一例がサイン(店舗に掲示する案内板)だ。一般的に建物を開発する側としては、コンセプトに沿ったデザインと内容に統一し、それ以外のサインは規制したくなる。しかし後藤さんは、「それを各テナントに求めるのは現実的ではない」と待ったをかけた。
「首都圏では、店舗デザインやマーケティング、PRなどを分業するのは珍しくないですが、地方の小規模事業者は基本的にすべて自分でやっています。どれも慣れていない作業なので、何がコンセプトに沿った正解の表現なのかわからず、戸惑ってしまう方も多いだろうなと思いました」(後藤さん)
後藤さんの助言を受け、設計者は各店舗入り口付近に共通デザインのサインボードを計画し、その枠内については申請なしに自由に表現できる仕組みをつくった。
「これならフォーマットがあるため、統一感がありながら店舗側の表現の自由も両立できます。また、サインだけではない店舗の表現の場かつ賑わいを外へ広げるための場として、店舗前に約1m幅の"にじみだしスペース"を用意し、テラス空間などにも使われています」(竹下さん)
地域の当事者と密にコミュニケーションをとりながら、出店者と同じ立場に立っていたからこそ生まれたものだった。
「晴れやかな交流の始まる通り」へ
そうして開業に向けた準備が進む中、施設名称は「HAROW」に決まった。
「HAROWには、宮崎の「晴れやかな」印象を表す「HA」に、英語で「通り」を意味する「ROW」をつなげ、ハロー(「こんにちは」)を連想させる音感をかけ合わせました。高千穂通りと広島通りが"晴れやかな交流の始まる通り"になってほしいという願いが込められています。」(江下さん)
ロゴは2つの吹き出しが向き合うデザインに。「人と人が会話する場」をイメージしたという後藤さんは、「ちょっと抜けてて可愛いデザインになったのが良かった」と評価する。
数字と体感が示すまちなかの変化
2024年11月の「HAROW広島通」8店舗先行開業を経て、いよいよ2025年4月に「HAROW高千穂通」「HAROW広島通」が全面的にオープンする運びとなった。
賑わいにとどまらず、
ビジネス創出の場としても
HAROW高千穂通の1階には、カフェなどの飲食店やエステサロンがオープン。無事に設置されたデッキでは、休憩や食事を楽しむほか、ノートパソコンを広げてオンライン会議をする姿も見られるようになった。想定していた以上に、多様な使われ方が日常の風景として定着し始めている。
同時に、単なる賑わいにとどまらず、ビジネスの芽も生まれつつある。近隣にあった宮崎市の創業支援拠点「MOC(一般社団法人 宮崎オープンシティ推進協議会)」が、機能と面積を拡張してHAROW高千穂通の1階に移転。地元のスタートアップの立ち上げサポートや、地元の中小企業の課題解決、企業同士のマッチング支援を核に活動しながら、オープンスペースでは講座やセミナー、交流会などのイベントを多数実施している。
「高千穂通りは、県内でも有数の企業集積地で、居住者も多いエリアです。そうした人たちがまちなかを歩くようになり、新たな出会いや交流を通じて事業を生み出していく。その起点となる場所がHAROWにできた意義は大きいと思います」(日高さん)
変わり始めた人の流れ
HAROW広島通では、ハンバーガー店やパン屋、惣菜店などが先行してオープンした。宮崎市内の事業者の新店舗出店や移転が多く、地元からの注目を集めている。後藤さんもシェア型本屋「Zine it! Books」を開店し、新たな人の流れを生み出す一翼を担っている。
また、さまざまなタイミングでイベントが行われているのもHAROW広島通の特徴だ。たとえば2025年8月には、「アジアな夜」と題した夜市イベントを開催した。施設内の飲食店のほか近隣のアジアン料理店も出店し、お面作りや占いのワークショップも実施。幅広い年齢層の人たちが集まり、あちこちで自然と会話が生まれた。この経験から、後藤さんはHAROW広島通にとっての「あるべき姿」を実感できたという。同時に、人の流れにも変化を感じ始めている。
「行政の計画で『ここは買い物をするところ』『ここは遊ぶところ』と無理やり指定しても、人がその通りに動くことはまずないと思います。でも、街中ピクニートのようなイベントを重ねる中で、人の歩く通りや行動が、ゆっくりと変わっていっているのを感じました。この広島通りも、10年前は市内で一番寂しい場所といっていいほどでしたが、HAROWが開業してから人通りが少しずつ増えているような気がします」(後藤さん)
後藤さんの感覚は、数字でも裏づけられている。2025年度(GW)の人通りはHAROW高千穂通が前年度の142.3%、HAROW広島通が前年度の130.1%だった。またぐるっぴー乗車数(1便あたり)も、平日は前年度の145%、休日は前年度の126%と増加。かつて裏通りは道路幅が狭く、ぐるっぴーは通過するのみだったが、HAROW広島通内にぐるっぴーの停留所ができたことで、まちなかを回遊する人が増えたことがうかがえる。
商店会全体が実感する「HAROW効果」
「体感では人通りは以前の5倍だ」と笑顔で語るのは商店会の会長を務める田中さんだ。HAROWの建設が始まってからというもの、店の窓越しに工事の様子を撮影し、広島繁栄会のSNSにアップするのが日課となっていた。現場の作業員とも言葉を交わすうちに親しくなり、「第二の現場監督になっていた」と冗談まじりに話す。
そして開業後は、"HAROW効果"を実感しているのだという。
「新規のお客様が増えて、ランチ帯の予約はほぼ常に満席です。HAROWを訪れた方が興味を持ってくれているのか、あるいは目の前の閉鎖的なビルが明るく開放的な空間に変わったことで、こちらの店の敷居も低くなったのかもしれません。夜は華やかなイルミネーションの影響か、HAROWが見える席をわざわざ指定するお客様もいらっしゃいます」(田中さん)
商店会全体でも売上は上向いているという。人が増えることで通りが明るくなり、安全性も高まる。その好循環への期待も膨らんでいる。
田中さん自身も、"HAROW効果"を生み出す賑わい創出に貢献している。イベントや店が盛り上がる様子を、商店会のSNSに度々アップしているのがその一例だ。「朝8時から夜10時まで、私は誰よりもHAROWを見ているから」と笑う。
時に注意喚起を行うこともある。たとえば2階から道路に対して直角に伸びる階段については、子どもが駆け降りて車道に飛び出す危険を感じ、指摘をした。指摘を受けNTT都市開発担当者で検討し、動線を迂回させて子どものスピードを落とし、車側からも視認しやすくするために、現在は死角となる部分に植栽を設置している。田中さんは「長く愛される施設になってほしいので、気づいたことはできるだけ報告するようにしている」と語る。
イベント開催時は音響チェックにも立ち会う。「近隣の方の気持ちも考えてのこと。実際に始まると、音は1.5倍くらい大きくなるのを見込んで確認している」と笑いつつ、「やはり盛り上がった方がいいから」と、サポートする姿勢を貫いている。
まちづくりで感じた地域の一体感
NTT都市開発も、地方都市での新たな挑戦に大きな手応えを感じている。とりわけ人通りの変化については、SIP(内閣府主導省庁連携戦略的イノベーション創造プログラム)第3期「スマートモビリティプラットフォームの構築」プロジェクトでの調査を通して興味深い結果が見えてきたという。
「HAROW広島通オープン後は広島通りの北側歩道(HAROW広島通側)を歩く人が増えたそうです。以前の壁が連なる暗い雰囲気だったころに比べて、通りに対して開かれ賑わいを感じられるようになったことが影響しているのではないかと考えています。気軽に立ち寄ってもらい、お気に入りの場所にしてもらうという当初の目標に、少しずつ近づいている実感があります」(竹下さん)
また、地域一体となって取り組めたことも大きな成果の1つだとNTT都市開発は受け止めている。直接の開発対象は、NTT広島ビルという1つの施設だけだったが、市やクリエイター、商店会などの関係者が、それぞれ熱い思いを持って主体的に協力し合うことができた。周辺の商業施設や店舗も、敵対視するどころかむしろ歓迎し、HAROW開業時には自主的にオープンを祝うポスターを掲示したり、リーフレットを置いたりしてくれたという。
「多くの地元の方から『近くにこんな施設ができるとは思っていなかったので嬉しい』と声をかけていただきました。宮崎市出身で今は別の場所に住んでいる方からも、『帰省したときに行ってみたい』という言葉をいただき、デベロッパーとして大きなやりがいを感じましたね」(江下さん)
賑わいを日常へ、
そして思い出へ
HAROWの開業を機に生まれたまちなかの賑わい。これからはそれをいかに広げ、日常化していくかが問われる段階に入っている。
建築面からのアプローチで広がる民間の参画
高千穂通りでは、再整備の範囲が広がりつつある。目的は、自転車通行帯の設置や耐荷重の強化、電源・照明の設置、水道の開設など、社会実験で浮き彫りになった課題を一つひとつ解決していくことだ。県では2025年度中にHAROW前、2027年に宮崎で開催される国民スポーツ大会をめざして、高千穂通り全体へと広げる計画を推進している。
道路空間だけでなく建築面からのアプローチも始まっている。「まちなか投資倍増プロジェクト」では、市のまちづくりに貢献する一定の条件を満たした場合に、建物の容積率、斜線制限の緩和、固定資産税等の軽減を認める方針を打ち出した。空港が近く、航空法による高さ制限が厳しい中心市街地においては、容積率の引き上げだけでは開発促進には限界があることが想定されるため、斜線制限の緩和と税制優遇もパッケージ化した本取り組みは、企業にとって現実的な後押しとなり得るものだ。
また、条件の中でもとりわけ重視しているのがオープンスペースの確保で、容積率緩和の要件には「居心地が良く歩きたくなる『まちなか』空間の確保」が挙げられている。さらに市は、幅2.0m以上の「歩きたくなる空間」や、奥行き4.0m以上で面積が100平方メートル以上の「憩いの空間」を認定する「まちなかオープンスペース認定制度」を設け、その認定を受けた面積分の土地(上限あり)について、固定資産税と都市計画税を最長10年間にわたり100%減免する強力なインセンティブの仕組みを整えた。
こうしたオープンスペースを増やす動きは、HAROWができたことで進めやすくなったと日高さんは語る。
「どんな取り組みも、まずは見てもらうことが大切です。ぐるっぴーも、市内で最も交通量の多い通りを時速20kmで、しかも12分間隔で運行することから『渋滞が発生するのでは』と当初は反対意見が多くありました。でも、実験段階でスムーズに運行する様子を見てもらったことで受け入れてもらえ、今ではまちのシンボルになっています。オープンスペースについても、HAROWを見てもらうことで取り組みや効果をイメージしてもらいやすくなるはずです。実際、問い合わせは増えています」(日高さん)
こうして市は、ウォーカブルなまちづくりに民間を積極的に巻き込む構えだ。周辺施設からHAROW高千穂通に設置したデッキの図面共有を求める声も増えている。
江下さんは「宮崎市がまちなか投資倍増プロジェクトという新たな施策を打ち出したり、広島通りの再整備が動き始めたりしているのを目の当たりにすると、今回の開発が1つのプロジェクトにとどまらず、周辺へ確実に波及していることを実感します。それが今回のまちづくりの大きな成果だと感じています」と語る。また、竹下さんも、「HAROWによる変化が、着実に通り全体に波及し始めています」と続ける。
人が継続的に訪れる場所にしていく
HAROW広島通の今後の目標は「継続」だ。後藤さんは、「短期間だけ派手にプロジェクトを実施し、地元の協力を仰いだあげくに、すぐに撤退するという事例を数多く見てきた」からこそ、個々の店舗に負荷がかからない形をめざしていると意気込む。
「各テナントは、まだHAROWでの運営に慣れていません。イベントを開催するとなっても『何をやればいいの』『ちゃんとできるのかな』と不安そうな顔をする方もいらっしゃるので、まずはそれぞれのできる範囲でやってもらうことを心がけています」(後藤さん)
また、「そのような方針を掲げられるのは、市やNTT都市開発、商店会などの理解があるからこそだ」と後藤さん。キャンペーンCMなどで一時的な効果を狙うのではなく、長期的に施設を育てていく視点を関係者全員で共有できていることがありがたいという。
とはいえ、HAROWの開発を主導してきた竹下さんには、テナントの自主性をさらに引き出したいという思いもある。
「実はあるテナントさんから『お正月に餅つきイベントをやりたい』と提案されたとき、とても嬉しかったんです。もちろん私たちからもアイデアを出しますが、テナントさんにも、こんな風に『HAROW』を活用してもらえると嬉しいですね」(竹下さん)
その思いは後藤さんも同じだ。そしてそのためには「これをしてほしい」とテナントにお願いするのではなく、テナントの「これをしたい」を吸い上げられる「小さな商店街」形式の運営が良いのではないかと、考え始めている。
「私たちにはまちをどうこうする力はありません。でも、個々の店舗の『これをしたい』が自然発生しやすい空気を作るのは大切です。ゆくゆくは『HAROWってこうだよね』ではなく、『こういうお店が集まってるからHAROWってこう見えるよね』と言ってもらえるようにしたいですね」(後藤さん)
HAROWを、思い出が作れる場所に
一方で、検討事項も残っている。日常の居場所としての手応えが見え始める一方で、より幅広い時間帯で、無理なく足を運んでもらえる仕掛けづくりはこれからのテーマだ。
「"ニワトリと卵"のような話ですが、人が集まるには魅力的なテナントが必要な一方で、テナントにとっては人が集まることが出店動機になります。昼の時間帯は利用者が増えているので、その賑わいを他の時間帯にも広げられないかと考えています」(江下さん)
このテーマについて、後藤さんは次のように考察を深める。
「昔、近隣の公園でマルシェを行ったときは、近所の女性を中心にお客様が集まりましたから、朝は相性が良いかもしれません。反対に夜は工夫を凝らす必要がありそうです。特定の場所にお酒を飲みに行くモチベーションは『どういう人たちがどれくらい集まっているか』をイメージできること。現状では、夜に空いている店舗がまだ少ないため、その動機をどう提供するかが鍵になります」(後藤さん)
HAROW広島通を見続けている田中さんは、「しっかり店が開いていることが、人が集まる上で大事ではないか」と推測する。
「私の店も開店当初は、同業者や近隣から『日曜日の営業をやめた方がいい』と言われました。裏通り一帯の店がほぼ休みだったからでしょう。それでも頑張って日曜日に開け続けたら、やがて満席になりました。開いていることが最大の来店動機になるんですよ」(田中さん)
その上で田中さんは「形はできた。これからは魂を入れていく段階だ」とHAROW広島通にエールを送る。その際に鍵となるのが「思い出」だ。田中さんのお店は40年間、一度も味を変えていない。一度試しに味を変えたとき、「あれが食べたかったのに」と客に言われたことがきっかけだった。その結果、子ども時代に訪れていた客が、親になった後も子どもを連れて食べに来ることが多く、「おいしいかどうか」以上に「思い出」が大切なのだと実感しているという。
「店を長く続ける秘訣は、『あのオーナーがいるから行く』『あの味やあの雰囲気があるから行く』と言ってもらえるようになること。時間はかかると思いますが、HAROWのそれぞれのお店がお客様の思い出を作れる場所になってほしいですね」(田中さん)
田中さんは、HAROWを見守り続けてきた
一方、若い世代には思い出が着実に蓄積されつつある。日高さんは、それが今後のまちなかの盛り上がりにつながると期待を膨らませる。
「かつて空き店舗が多く、親から『治安が悪いから裏通りには行くな』と言われていた世代は、大人になった後も抵抗感を拭えないといった声を聞くことがあります。ただ、逆にいうと、今の若い世代にまちなかでワクワクする思い出をたくさん作ってもらえば、大人になってもまちなかに行くモチベーションが生まれるということ。『ここに来れば、必ず何かワクワクすることがある』。『HAROW』を起点に、そんなまちなかを作り上げていきたいですね」(日高さん)
そのための仕掛けづくりを、NTT都市開発も着々と進めている。江下さんは、「イベントの開催を重ねることで、『ここに来れば、面白いことをやっている』というイメージを定着させたい」と意気込む。
そのイベントでは物販だけでなく、植木鉢の絵付けや缶バッジ製作など、体験型ワークショップにも力を入れている。
「大切なのは、HAROWで『こんなものを作ったな』『こうして遊んだな』という思い出をたくさん作ってもらうこと。大人になって宮崎に帰省してきたとき、ぐるっぴーと同じように『ああ、宮崎に帰ってきたな』と思ってもらえるような施設にしたいですね」(竹下さん)
公民が手を取り合い、一歩ずつ形にしてきたHAROW。多くの人の思いを乗せ、これからも地域の人々に寄り添い、共に成長し続ける場所であり続けるだろう。