Green Futureレポート
空調コミッショニング
ビルの脱炭素化の手段として太陽光発電などの再生可能エネルギーの活用がまず思い浮かぶのですが。
省エネ効果が最も高いのは空調設備
そうですね。ビルの脱炭素化には図-1のようにさまざまな手段があります。太陽光発電でエネルギーを創る「創エネ」も重要ですが、「省エネ」、つまり消費エネルギーを減らすことも非常に大切です。そしてビル全体で最も消費エネルギーの削減効果が高いのが空調設備なので、これを中心に省エネ化を進めていくことになります。
- ビルの脱炭素化の手段は、CO2の排出を伴わない自然再生エネルギーを創る「創エネ」と、消費するエネルギーを減らす「省エネ」の2つに分けられます。
- さらに省エネでは、外皮(外壁や屋根、窓)の断熱性能の向上などによって冷暖房のために必要なエネルギーを減らす方法と、効率的な設備の導入や運用の最適化などによって、エネルギーを無駄なく使う方法の2つに分けることができます。
空調設備の省エネ化とは、具体的にどのようなことをするのでしょうか?
空調設備の更新時を見据えつつ、運用面で改善
ビルの空調設備は、およそ15年から20年おきに劣化した設備を更新します。この更新時期を見据えながら、現状の運用性能を検証・分析し、改善するとともに、設備の更新計画に反映することで、より適切で省エネな空調の運転を実現していきます。これを「コミッショニング」と呼びます。今回は、この空調コミッショニングについて解説していきます。
- 空調コミッショニングは、機器が本来発揮すべき要求性能通りの運転を実現する品質管理のプロセスとなります。現状の運用性能を分析する性能評価、機器の設定によって運用を改善し最適化するチューニング、結果を検証するモニタリングの順で作業を行い、より適切で省エネな運転を実現します。そしてこれらの過程で得たデータや知見を活かし、設備更新時にダウンサイジングをすることで、効率的かつ継続的な脱炭素化が可能になります。
- 建物オーナー・テナント・維持管理者・設計者などの建物関係者間で要求性能などの合意形成を図り、文章化したうえでプロセスを進めます。
空調コミッショニングはどのような手順で、運用の改善やシステムの見直しなどをするのでしょう?
まずは現状の空調システムについて、データを収集して性能評価を行います。そのデータを分析して課題を拾い上げ、どのように運用を改善すればよいか、能力やシステムの見直しが必要かなどを立案します。
データを集めるのは非常に大変そうですね。
蓄積データを活用
一定規模以上のビルには中央監視システムが備わっており、空調に関するデータも蓄積されていますので、それを取得するだけでOKです。データが取れていない場合も設定変更により追加で取得できるケースもあります。また中央監視システムがない小規模なビルでは、センサーを設置し、ICT技術を活用してデータを収集します。
空調設備の設定変更で省エネを行うというのは、部屋の設定温度を夏は高め、冬は低めにしたり、人がいない部屋の空調をこまめに切ったりすることですか?
機器内部の制御設定を変更
それももちろん大事なことではありますが、ビルの空調設備には、利用者が調節できる範囲の運転設定とは別に、機器の内部に閉じられた制御設定があります。機器のメーカーやエンジニアリング会社のみが設定することができますが、この設定を変えて機器を調整・最適化することを行い、これらを「チューニング」と呼びます。
住宅用のエアコンではそういうチューニングと呼ばれるものはないですよね。
住宅用のエアコンは、ひとつの部屋の温度を調節するという明確な目的のためにつくられていて、メーカー側ですべての機能をパッケージ化しています。ですので、基本的には住宅に合わせて機器をチューニングする必要はありません。しかしビルの設備は、仕様や大きさの異なる、さまざまな室内の空調を制御しなければなりません。仕組みもさまざまな機器が連携して動いていて複雑なんです。空調コミッショニングでは、個々の機器の調整に加え、これらの連携も最適化していきます。
- 一定規模以上のビルの空調には、図のような「セントラル空調方式」が採用されています。この方式では、ビル内に熱源機器を集中して設置し、そこで作った冷水や温水を搬送設備のポンプで循環させています。冷温水は各フロアに設置された空調機に届けられ、空調機から吹き出す空気を冷やしたりしています。
- これはオーケストラの演奏に例えることができます。建物をコンサートホールとするなら、設備機器は個々の楽器で、空気や水の流れが演奏。統率する制御システムが指揮者です。
- 設計通りに機器が入っていても、音合わせは必要です。各楽器が正しい音を出せているか確認したうえで、全体を調和させなければよいオーケストラ演奏にはならないのと同じように、ビル内の快適な環境を維持するには、設備をチェックし、システム全体を最適化することが重要です。
変更する設定の内容について教えてください。
また、ビル利用者が調節できる範囲の運転設定についても、適切な設定を行うことでエネルギーの無駄を最小限に抑えることができます。さらにAIやIoT技術などを活用した空調制御の導入をコミッショニングとセットで行うと、より効果が望めます。
設備機器のチューニングによって、どのぐらい消費エネルギーを削減できるんですか?
ビルによって変わりますが、空調で消費されるエネルギーの20~40%の削減が可能です。
そんなに!?
ビルの空調設備は性能に余裕をもたせている
ビルの空調設備は、竣工時の設定条件と、実際に入居してからの運用開始後の状況は必ずしも一致しません。設備自体も設定も多様な使い方に対応できるように性能にかなり余裕をもたせていますから、もう少し抑えた運転をして消費エネルギーを減らしても問題ない可能性があります。これを実際の運用状況を鑑みた設定にチューニングすることで、大きな省エネ効果が見込めるのです。
チューニングの後のモニタリングとは何ですか?
再度エネルギー消費量や設備運転状況、室内環境などのデータを取得・分析し、制御設定の変更を行ったことで、想定通りの動きか、消費エネルギーがどのくらい減ったかなどの効果について検証します。
一度チューニングをすれば、空調コミッショニングは完了ですか?
継続的に検証してさらなる最適化を図る
チューニングは基本的に1回で大丈夫ですが、その後も3〜5年ごと、または入居テナントさまが替わることでビル内のレイアウトに変更があった際は、改めてモニタリングを行い、必要に応じて再チューニングを検討します。こうして継続的に性能検証および運用最適化を行っておけば、設備更新時に能力やシステムの見直しが可能となります。そして必要十分な性能の設備にダウンサイジングし、制御方式を適切なものにすることで、さらにエネルギー消費を減らして効率的に脱炭素化を図ることができます。
今までより能力を抑えた設備に更新するわけですから、費用も必然と抑えることができます。つまりイニシャルコストとランニングコストの低減にも寄与できます。
Grand Park
約40%のエネルギー削減を実現
NTTファシリティーズの自社拠点が入るこのビルは、熱源に関しては地区の熱供給会社からの供給を受けていて、ビル内に熱源設備を持たないため、主に空調機(エアハンドリングユニット)についてチューニングを検討しました。そして空調機制御の頭脳部の設定について、性能評価を元に実運用後のリアル性能によるチューニングを施した結果、空調機のファン電力量を約40%削減できました。
Hokunou Building
熱源設備のダウンサイジングを実施
NTTファシリティーズが維持管理業務を担っているこのオフィスビルは、設備の更新時期を迎えていたため、これまでの運用データから空調能力を検討し、熱源設備のダウンサイジングを実施しました。その結果、イニシャルコストを抑制し、ランニングコストの試算では7%の低減が見込まれます。今後もモニタリングを行い、必要に応じてチューニングを実施し、さらに運用での省エネをめざします。
運用段階でのチューニングと設備更新時のダウンサイジングを組み合わせることで、竣工から解体に至るビルの一生を通じて段階的かつ継続的に省エネ化を実現するのがコミッショニングの特長です。運用のフェーズと設計のフェーズを結び付け、設計者の制御意図を踏まえた運用や、運用の知見をフィードバックした改修設計によって、より効率的に省エネに取り組むことができます。
ビルの所有者にとっても、そのほうが省エネに投資しやすくなりそうですね。
はい。その点も、コミッショニングの大きなメリットです。コミッショニングを通じて、機能維持と環境性能向上施策を連動させながら段階的に取り組むことで、投資を平準化し効率化することができます。
- 設計と運用を継続的、段階的に結び付ける空調コミッショニングの実施により、ビルの省エネ化と快適性を高めていくことが可能になります。
省エネ投資を設備投資とともに計画的に行うことで、無理なく脱炭素化に取り組めるわけですね。
はい。空調コミッショニングについては、国土交通省の支援の元、NPO法人建築設備コミッショニング協会が2024年に建物所有者向けのコミッショニングガイドラインを作成し、普及に力を入れています。また建設DXの一環としても、設計・施工・運用データを連携させて確実な性能実現と省エネ化を図るコミッショニング手法が重視されています。
ハードとソフトの両面でビルの価値を向上
NTTファシリティーズは、ビルの一生を通じて継続的な運用支援とともに、ICTやAIなど日々進化するデジタル技術を建築に取り込み、ソフトウェアの面からも建物の価値を継続的に向上させることで、使えば使うほど価値を生むビルをめざします。そして省エネによる環境への負荷低減への貢献と、企業の事業価値や社会価値の向上を同時に実現していきたいと考えています。










































